イージス艦(シビリアンコントロール)派遣要請に関する交渉記録 【防衛庁交渉 2002年6月17日】
防衛庁交渉団:伊藤瀧子・高瀬晴久・浅井健治・笠原祥子・竹内宏彦・金森裕之
(録音の許可下りず。明快にゆっくり話すという条件で合意。質問書はすでに提出済のため、当方では読み上げず、一通り全問に答えさせ、説明不足の個所、及び疑問点については、改めて問い質すという形態をとり、会談に入る。ただ、答える方としては、質問の概略を述べながら、答弁に努めた)
【質問】 まず、シビリアンコントロール(文民統制)についてご質問する。これについて、防衛庁はどのように認識されているのか、
【回答】 シビリアンコントロールとは、一般的な認識としては、世界各国、民主主義国家では、軍事に対する政治の優先を確保する仕組みと考えられている。民主主義国家においてはぜひとも確保されねばならない。わが国の現行制度では、
第一に、国防・防衛も含めて国政の執行を担当する最高責任者である内閣総理大臣の統制の下に行われている。憲法上、総理大臣を含む国務大臣は文民でなければならず、また、総理大臣は国会で選任され、議員内閣制の下で国民の意思が自衛隊の統制に及ぶ仕組みになっている。
第二に、防衛出動・装備など国防に関する重要事項は、総理大臣が議長を務める安全保障会議の議を経る仕組みが安全保障会議設置法で定められている。
第三に、自衛隊は他省庁と同様、その予算や関連する法律は国会の承認が必要であり、国会の民主的コントロールの下に置かれている。
以上、わが国ではシビリアンコントロールの原則は貫かれていると認識している。
【質問】 シビリアンコントロールは防衛庁制服組と、どのような関係があるのか、ないのか教えて頂きたい。
【回答】 質問の趣旨が、シビリアンコントロールの対象は何か、という意味であれば、制服組を含む実力組織たる自衛隊がシビリアンコントロールの対象であり、その意味では、関係がある。
【質問】 防衛庁制服組は1980年代からシビリアンコントロールを犯してきたと指摘されている。こういう噂が取り沙汰される根拠はどこにあるのか。
【回答】 どういう事象を指しているのか不明で、答えが難しいが、これまで申し上げた通り、シビリアンコントロール確保の仕組みは貫かれている。犯してきたことはない。
【質問】 防衛庁におけるシビリアンコントロールの存在が具体的に報じられたのは、5月6日の朝日新聞朝刊だ。この報道をご存知か。報道を知った時点でどう思われたのか。
【回答】 朝日新聞が報道した、海幕が米側に働きかけをした事実はないと聞いている。事実に基づかない報道へのコメントは差し控える。
【質問】 この問題は防衛庁広報課の海和干城(かいわたてき)さんから「事実ではない」「新聞に名前の出ている香田洋二海上幕僚幹部防衛部長本人から確かめた」とする否定の連絡(5/30)を受けたり、有事法制特別委員会(5/7)においても、小泉首相と中谷防衛庁長官からも同様の否定があったことは前文通りだ。
他方、朝日新聞社は「記事は十分な取材に基いて掲載した」と対外的に公文書まで発行し、自社記事の正当性を訴えている。「虚偽の報道をしたならば、朝日新聞紙面で購読者にお詫びもするが、この記事はあくまでも事実」と、社の信用問題についても言明している。
また記事自体は相当綿密な取材を行い、報道している。要点を抽出しながら、以下お尋ねする。
朝日の情報源は「日米双方の安保関係筋」であるとしている点について、信憑性はあるのか。
【回答】 本来は広報課が回答する事柄だが、記事に関する申し入れに対しては、朝日新聞から正式の回答がない。当庁としては、再度、報道は事実ではないとする抗議を申し入れたいと考えている。
【質問】 報道の対象にされた自衛隊員は、「防衛庁海上幕僚監部(海幕)の幹部」(香田洋二海上幕僚幹部防衛部長のこと)と、固有名詞で指摘されている根拠は何か。
【回答】 報道の対象となった本人に直接事情を聞いたところ、4月10日にチャプリン司令官と会談したことは事実だが、米側から要請するよう働きかけたとの事実はないと確認している。この点については、在日米海軍司令部からも確認を得られている。
【質問】 海幕が交渉を持ちかけた相手方も、「在日米海軍チャプリン司令官」と特定されている。防衛庁制服組のこうした政策交渉は日常茶飯的に行われているのか。
【回答】 政策交渉という名は適当ではないが、海幕防衛部長と米司令官とは、定期的ではないが、月1〜2回程度は会っている。9月11日(米テロ事件の)以前からそうした会談は行っていると聞いている。
上官級の定期協議について言えば、日米間の安保協議は、上は総理大臣と大統領との間から、2+2(外務大臣・防衛庁長官+国務長官・国防長官)、防衛庁長官と国防長官、局長級、審議官級、とさまざまなレベルで行われている。
【質問】 月1〜2回程度会う目的は。
【回答】 一般的な情報交換だ。例えば、インターオペラビリティ(相互運用性)について意見交換を実施していると聞いている。会談で話し合われた内容については、逐一内部部局に報告が来ることはない。重要な話がされれば、連絡がくる。
【質問】 重要かどうかは誰が判断するのか。
【回答】 会議出席者が判断する。
【質問】 制服組が判断するのか。
【回答】 質問の意図がよく分からないが、制服組であるかそうでないかに大きな違いはない。会談の内容が逐一、重要でもないのに、報告されることはない。
2+2の下で、海幕と米側のしかるべきセクションで協議している。自衛隊と米軍はふだんから共同訓練など、いろんなことを実施しており、さまざまなチャネルで話し合いをしている。そうした協議が定まった、決められた形式になっているかというと、そうではない。それぞれのコンポーネントがあり、その間でふだんからお付き合いがある。
【質問】 軍事上の知識は、内局より制服組の方が詳しいのではないか。
【回答】 内局にもいろんな課があって、それぞれ専門を持っている。分からない話があれば、どういうことか聞く。聞く相手は制服組とは限らない。いろんな形でコンポーネント同士の付き合いがあり、その中で重要なものが上がってくる。制服組だけで会っているわけではない。重層的にお付き合いしている。制服組同士だけでと、とらえておられるなら、誤解がある。
【質問】 防衛庁制服組と在日米側要人とが会談し合うのは、ほとんど横須賀基地内か。
【回答】 会談場所は横須賀に限ったことではない。この市ケ谷の中でも、またその他不特定に会談の場所は設定する。
【質問】 交渉日は「2002年4月10日」と特定されているが、その根拠については、何か思い当る節がおありか。
【回答】 4月10日は事実である。
【質問】 シビリアンコントロールを破壊する内容については、3点が挙げられている。海幕(香田洋二海上幕僚幹部防衛部長)は準備したメモ書きに沿い、これらの要求を行ったと報じているが、これについて順次お尋ねする。
−−「海自イージス駆逐艦は警戒監視能力に優れ、米海軍との情報交換分野で相互運用性(インターオペラビリティ)が強化できるので派遣を期待する」
これについては、自衛隊員がイージス艦の能力を実際に試してみたいという願望を満たすために持ち込まれた話のように理解できるが、そういう解釈の仕方でよいのか。
【回答】 報道のような事実はないので、答えは差し控えたいが、質問で指摘されているようなことは全くない。
【質問】 −−「捜索救難の分野で高度の水上監視能力を持つ海自P3C哨戒機による支援を期待する。もしディエゴガルシア島付近に来てもらえば大いに評価する」
これについても、まるきりアメリカ側の要求と受け止められる内容になっているが、こういう交渉内容はいわゆる個人的発想ではなく、少なくとも、制服組上層部の申し合わせによる計画的行動だと推測できるが、これについてはいかがか。
【回答】 このような事実自体、ない。
【質問】 「海自補給艦2隻のインド洋展開をできる限り長く維持してもらえば非常に喜ばしい」
これについては、5月、日本政府の決定により、延長が決まった。しかし、この件に関し、朝日の記事は大要、以下のように報じている。
日米双方の安保関係筋によると、海幕幹部は4月10日の在日米海軍司令官との面談で、テロ特措法に基づく支援活動を5月19日の期限切れ後も延長する方針を前提に、米側から次(上記)の3項目を日本側に要請するよう、準備したメモ書きにそって促した。
これについて、裏工作を持ちかけられたチャプリン司令官は「(権限を越えるので上級の)太平洋艦隊司令官に伝える」とだけ答えたと報じられている。
また、米軍事筋は朝日の取材に対して、日本の海幕幹部による働きかけの理由として、こういう説明を加えたとも、明らかにしている。「仮に、米軍がイラク開戦に踏み切ってしまってからでは、イージス艦や、海自P3Cの派遣は難しくなる。何もないうちに出しておけば、開戦になっても問題にはならないだろう」
つまり、自衛隊は好戦的で、アメリカの戦争協力に絶大な情熱を燃やしているように受け止められるが、実際にはいかがか。
【回答】 朝日の報道のような事実はない。(アメリカの戦争協力に情熱を燃やしている、というような)そのようなことはない。
付け加えれば、支援の根拠は、テロ特措法第1条で支援の対象を「テロ攻撃によってもたらされている脅威の除去に努めることにより、国連憲章の目的の達成に寄与する米国、その他の外国の軍隊、その他これに類する組織」としていることに基づく。支援はこれらの軍隊に対して実施するものであり、「アメリカの戦争協力」という趣旨の質問は、あたらない。
【質問】 この後の経緯として、ワシントンで開催された審議官級の「日米安保事務レベル協議」(ミニSSC)開始に先立つ日米の折衝で、米側から非公式な派遣打診があったり、4月29日には、ワシントンを訪ねた与党3党の幹事長に対し、ウォルフォビッツ国防副長官が派遣要請したというプロセスまで、明らかになっている。
今回の問題で明らかになったのは、イージス艦やP3C哨戒機のインド洋派遣などにかかわる軍事政策が、実質的には、政府筋で練られたものではなく、自衛隊制服組が米軍に持ちかけた政策であり、いわゆる政治が軍隊によって動かされている(シビリアンコントロールの破壊)という、決定的な証拠になると私たち国民の目には映るのだが、これについて、防衛庁の責任ある答弁を求める。
【回答】 繰り返しで恐縮だが、朝日の報道に関することは答弁しかねる。
【質問】 「日米安保事務レベル協議」についてはどうか。
【回答】 説明不足だった。4月16日にワシントンで日米安保事務レベル協議が開催された。そこではテロ特措法に基づく協力支援にかかる協議はあったが、P3C哨戒機やイージス艦への言及はなかった。4月29日には与党3党の幹事長がウォルフォビッツ米国防副長官とワシントンで会っている。
当庁の把握するところでは、その会談後、4月29日現地で開かれた記者会見で3幹事長が、「先方(ウォルフォビッツ副長官)より、『日本からイージス艦とP3Cを派遣していただくことを希望している』との発言があった」と発言していることは承知している。
しかし、朝日の記事のような事実はない。事務レベル協議で非公式の打診があった事実はない。「米軍に裏工作」との、朝日報道が主題という認識が頭にあったので、事実ではないと申し上げた。記者会見は行っている。
【質問】 与党3党幹事長とは誰か。
【回答】 自民・山崎拓、公明・冬柴鐵三、保守・二階俊博だ。
【質問】 事務レベル協議と平行・オーバーラップする形で、制服組の協議はあったのか。
【回答】 制服組の政策協議が平行する形で行われているということはない。ミニSSCとオーバーラップする政策協議はない。
【質問】 再確認したいが、防衛庁は朝日の報道を、「事実ではない」としながら、海幕が要請を持ちかけたチャプリン司令官との会談および、会談日も4月10日と、報道記事通り認めた。
また、4月16日、ワシントンで日米安保事務レベル協議が開催されたことも認め、4月29日には与党3党の幹事長がウォルフォビッツ米国防副長官とワシントンで会っていることも認めた。
さらにその会談後、現地で開かれた記者会見で、与党3幹事長がウォルフォビッツ副長官より、『日本からイージス艦とP3Cを派遣していただくことを希望している』との発言があったことも認めた。
つまり、防衛庁は朝日の記事に対して、ある部分は認め、ある部分は事実ではないと否定する。これでは都合よく言い逃れをしているとしか思えない。これについてはどう釈明するのか。
【回答】 記事は事実ではない。朝日には抗議の申し入れをしている。朝日の報道が事実ならば、朝日はなぜ、防衛庁に反論してこないのだ。
【質問】 朝日は反論してこない。私たちは朝日に抗議した。「今回の記事が政府に“事実ではない”と否定(防衛庁長官宛ての前文参照)された以上、購読者への釈明義務と、朝日の体面を保つための方法を講じるべきだ。新聞の1面に囲みで、『イージス艦報道は事実である。我々は十分な取材に基づいて掲載した。信用してほしい』と、載せるべきである」と迫った。
しかし、朝日は、「抗議はしない。記事で勝負する」とし、「この問題は今後も取材していく」と言い切った。公言どおり、6月16日に第2弾を出してきた。これがその記事だ。
朝日の見出しにはこう書いてある。「インド洋上補給。海自艦、米が戦術指揮/昨年来、海幕チーム容認」。記事の一部はこうなっている。「防衛庁海上幕僚監部の派遣チームが11月、バーレーンの米中央軍第5艦隊司令部で当事のムーア司令官に会い、インド洋での対テロ戦争の補給作戦で海上自衛艦が米海軍の『戦術指揮統制』下に入ることを容認していた。複数の政府関係者が明らかにした」
さらにまたこういう見出しもある。「また海幕の現場独走。派遣チーム。政治的に公言できぬ」。まさにシビリアンコントロールの破壊ではないか。いかがか。
【回答】 そういう事実はない。朝日の報道ばかり信じないで頂きたい。
【交渉団】 私たちとしては、この問題は今回限りで終わりにするわけではない。継続して問題点を明らかにしていく。防衛庁とは長いお付き合いになるが、よろしくお願いする。
以上 午後4時30分交渉終了。 トップページに戻る |