また海幕の現場独走派遣チーム、米軍の指揮下容認


2002.06.16 東京朝刊 3頁
 

 また海幕の現場独走疑惑である。小泉政権は「憲法の枠内」といってテロ対策特措法を成立させ、海自艦を戦時のインド洋やペルシャ湾に派遣した。が、遠く離れた協力支援現場で、憲法9条は軽んじられていた。(1面参照)

 政府は過去、部隊の指揮の問題に配慮してきた。97年9月の日米防衛協力のための指針では、「日米共同調整所」を準備し、共通の常設司令塔を持たせた。たとえ周辺事態であっても日本が共同指揮に確実に参画することを担保する仕組みだ。集団的自衛権行使の回避が念頭にあった。

 だが、テロ対策特措法では共同指揮所は設定されていない。局長級の調整委員会を頂点とする調整枠組みがあるが、調整委は昨年11月以来、計3回開かれただけ。現場から戦術指揮統制問題が提起された形跡はない。

 同枠組みでは、反テロ戦争を指揮統制する米中央軍との戦術調整はほとんど制服組に任せているのが実態ではないか。そもそもこの仕組みに欠陥がある。インド洋やペルシャ湾での自衛隊と米軍の共同作戦の具体的な中身に、文民統制の目は届きそうもない。

 海自派遣チームが「政治的に公言できない」と米海軍の注意を喚起していたことも重大だ。問題性を承知の上の確信犯だった疑いが濃い。

 一方、集団的自衛権を正面切って行使したい立場からの批判もある。昨年11月の参院外交防衛委員会。空自出身の田村秀昭氏(自由党)が「米軍の指揮下に入らなかったら戦争にならない」と問い、陸自出身の中谷元・防衛庁長官は「軍事行動する場合はそれが常識論だ。今回は調整型で各国それぞれ独自の支援をしている」と答えた。

 確かにバーレーンの打ち合わせで米側は「調整過程等で米軍側の要請を断るのは全く問題ない」と説明した。だが、部隊が具体的行動に入る戦術局面で要請を断れば作戦自体が混乱してしまう。

 海幕の現場独走疑惑は、米空母護衛艦隊派遣をめざした昨年秋の対米・対政界工作、イージス艦などのインド洋派遣を日本側に要請するよう促した今年4月の対米海軍工作に続き3件目。行き過ぎた政治的言動に走る一部の制服組に対し、政府や国会は文民統制を徹底させる必要がある。

(編集委員佐々木芳隆)

朝日新聞社

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