「有事法制関連三法案」に関し、政府に廃案あるいは国民的議論を前提にした法案の練り直しを求める「意見書」提出を要請する陳情


大田区議会議長 河津 章夫様

                            平成14年6月5日

<陳情の趣旨>

1、今国会で政府が成立を目指し、審議を進めている「有事法制関連3法案」は、日本を軍事大国化し、アジア諸国との緊張関係を生じ、わが国の国益を損なうこと夥しい。私たちは憲法9条の精神に則り、日本政府が戦争国家法案を成立させることに、全面的に反対する。大田区議会は私たち地域住民の平和願望を尊重し、日本政府に同法の廃案、あるいは国民的議論を前提にした法案の練り直しを求める「意見書」の提出を行うこと。

2、今回明らかになった防衛庁のシビリアンコントロールの破壊及び、情報開示請求者への思想調査絡みのリスト作成等は国民への監視であり、私たちは守られるべき対象とはされていない。しかも防衛庁が国民をスパイ活動する情報本部の存在さえ指摘されている。これらは防衛庁における越権及び、法の蹂躙であり、看過することはできない。有事法制の審議と相俟って国民感情をいやがうえにも刺激し、人々の不安はより一層の深刻さを増している。大田区議会は私たち地域住民の人権を守り、日本が誤った方向に押し流されないため、日頃培ってこられた平和に対する見識を基に、毅然たる態度で日本政府に本法案の撤回を求め、是非とも必要な法案ならば、新たな枠組みで、良識ある法案の作成を促す「意見書」の提出、あるいは異議申し立てを行うこと。

<陳情の理由>

政府が今国会で成立を目指している「有事法制関連3法案」は十分な内容に纏められている法案とはいえず、非常に曖昧、かつ、場当たり的です。例えば武力攻撃事態という切り口にしても、わが国を攻撃する可能性のある国が存在するのか、否かという問いかけに対して、ここ5,6年はないとし、では将来的にどの国が脅威になるのかについては、具体的に答えられません。また「武力攻撃の怖れがある場合」と「武力攻撃が予想される場合」との違いも明確ではない上、具体的にどのような場合を想定して“有事”とするのかさえ明らかにされていません。

地方公共団体の責務に関する項目では、武力攻撃事態への対処に関し、必要な措置をとるとありますが、どのような“措置”を指し示すのか、内容的に明文化されていないのです。

反面、本法案15条2項によれば、地方公共団体に対して、「内閣総理大臣自ら、あるいは担当大臣を指揮して“対処措置”を実施、または実施させる」としていますが、これらは国が有事に事寄せ、本来、住民の生命・身体等を守るのは地方公共団体の責務・権限であるにもかかわらず、越権してくるという地方自治法の根幹を揺るがす問題でもあるのです。これら憲法違反が明らかな本法案に対して、地方公共団体は本来の責務に照らし、政府にすべてを白紙委任すべきではないと、私たちは考えます。

また“有事”における国民への保護・権利の問題にしても現段階で明らかにせず、成立後2年以内に整備するなどと、不明朗な点を残しながら、何が何でも成立を急ぐという姿勢に対して、私どもは権力者の暴走を認識します。本法案が一旦成立すれば、内容的に益々強化されることはあっても、国民の立場にたった適切な法律が完成するとは思えません。趣旨に述べたように、現時点における防衛庁の不祥事を勘案しても、それらは明白です。

いま、国民的反対運動が強まっている本法案の行方がアジア諸国から注目されています。日本が軍事大国化することを最も恐れる国々はかつての日本の侵略戦争で大きな犠牲を強いられた国々です。村山元総理をはじめ、歴代首相は日本帝国主義の非を認め、謝罪し、憲法9条の精神に則り、不戦の誓いを新たにしてきました。近隣諸国との和解が進み、国際社会における日本の在り方が重要視される現段階で、なぜ日本は憲法9条の精神を踏みにじり、軍国化への道を突き進まなければならないのでしょうか。

5月31日、政府首脳(福田官房長官)が、日本の核兵器保有を禁じた「非核三原則」の見直しもありうるとした発言を行い、国民はもとより、アジア諸国からも激しい批判の声が挙がっています。平和都市宣言や非核都市宣言を行っている地方自治体の自主性及び、自立性の根幹さえ揺るがす重大な問題を孕んだ発言です。私たち大田区民は政府に対し、「有事法制関連3法案」の成立において、白紙委任は致しません。

これまで私たちは、述べ710人の衆議院議員を個別訪問し、廃案を訴える粘り強いローラー策戦を行ってきました。防衛庁にもシビリアンコントロールの問題で質問書を提出、見解を求めに訪庁しました。「有事立法」の廃案を目指し、23区ネットも立ち上げ、地域住民より各区に、政府に対する見直しの意見書、あるいは廃案の要望書等を提出して頂きたいという趣旨の要請を行っています。いま全国的な傾向として、県や市、町村レベル及び、全国知事会・市長会などによる「有事法制関連三法案」の廃案や見直し、慎重審議を求める働き掛けが活発化しているのです。

しかしながら、65万市民を抱え、東京湾に面し、羽田空港を擁し、有事の判断においては、最も敏速な対応を迫られるであろう大田区においては、この問題に対する積極的な論議と取り組みが進められておりません。こうしたことは、私たち大田区民にとって、大変不幸なことといわざるをえません。

私たちは平和都市宣言を掲げ、外国人への保護・サービスにも積極的に対応されている大田区長はじめ、区議会議員の皆様方に訴えます。どうぞ日本のあるべき姿を念頭に、「有事法制関連三法案」について、当自治体及び大田区議会一体となって、本法案が戦争を呼び込む危険極まりない悪法であるとの認識の下、政府に対して廃案、あるいは国民的議論を前提にした法案の練り直しを求める「意見書」の提出をお願い申し上げたく、本陳情書を提出いたしました。よろしくお取り計らいの程、お願い申し上げます。

提出者
世界の平和と子どもの教育を考える大田実行委員会代表
NO! 有事立法23区ネット代表 
伊藤 瀧子

活動日誌に戻る