防衛庁シビリアン・コントロール追及に関する報告


               
                 取り組み団体:NO!有事立法23区ネット
                            代表 伊藤 瀧子
はじめに
防衛庁の暴走を許さない市民ウォッチィング

この運動は、防衛庁制服組の暴走を許さず、市民サイドで監視し、日本の防衛活動の正常化を図ろうとするものである。本取り組みへの切っ掛けは、『朝日新聞』5月6日付けのスクープ記事、「海幕、米軍に裏工作 イージス艦派遣 対日要請促す」の報道が直接的な動機となった。

イージス艦問題とは、我が国が保有する世界最高水準の防空システムを搭載した護衛艦(米開発の戦闘艦)を、「テロ特措法」下の支援活動に乗じ、インド洋への派遣を念頭に、上記の行動に出たとされる問題である。

本交渉を米軍に持ちかけた海上自衛隊幹部の意図は、アメリカの対イラク戦を視野に入れ、米船団の護衛活動を行うには同艦の派遣が最も望ましいとの思惑から、開戦前の、特に日本の支援期限内に手を打たなければ、派遣のタイミングを逸しかねないと本年4月10日、横須賀基地のチャプリン米軍司令官を訪ね、前述の働き掛けを行ったと報道されたものである。

これはまぎれもなく、日米軍双方による馴れ合いの軍事交渉であり、憲法で禁じられている「軍隊の政治的介入=シビリアン・コントロールの破壊」以外の何ものでもない。56年前、なぜ日本が世界の超大国アメリカを相手に世界第二次大戦を引き起こしたのかといえば、軍が政治を動かしていたという歴史的事実がある。

折りしも政局は有事法制成立に向けて急進中、反対運動の先鋒にいた私たちにとって、本スクープは同法不成立の切り札になると意気込んだのも束の間、愕然とする事態が発生する。5月7日の有事法制特別委員会の席上、民主党の岡田克也議員がこの問題を取り上げ、追及するが、小泉総理も中谷防衛庁長官も、「事実ではない」と真っ向うから否定し、特に中谷長官は「朝日に抗議の申し入れをしている」と止めを刺す反論を行った。

唖然とした私は時を置かず朝日に記事の真相を問い質そうと、即座に手書きの質問書をしたため、FAX送信する。その後の交渉結果、「記事は正確なる取材に基き、掲載した」という、朝日新聞社社印入りの公文書(資料)を入手、いよいよ防衛庁追及交渉が始まることになる。

しかし、その前に特別委員会で追及した岡田議員にその後の結果を確かめるべく面会を申し入れるが、事成らなかった。同日および翌日、馴染みの議員に話を持ちかけるが見解の相違は明白で、運動自体暗礁に乗り上げるかに見えた。いわく「朝日の証明を楯に防衛庁交渉を行えば、メディア規制に拍車をかけることになる。よしたほうがよい」「普通の市民が防衛庁を攻めても絶対、事実を言うわけがない。そういうことは議員に任せておけばよい」など、極めて消極的な助言に止まった経緯がある。

ではどうするのか。二者択一を迫られた自身に下した結論は、惑わず迷わず、自らの持つ価値観と問題意識で取り組みを進めるべきという積極論だった。

質問文書の形式および作成は、粗略に扱えない公文書形式をとり、内容については、いかに相手方に口を開かせるかに力点を置いた。そこからいかに答弁の矛盾点を引き出すかが勝負である。有事法制阻止に向けた国会議員要請など、時間不足の中で文書をまとめ、防衛庁長官宛てに提出、交渉の日程を調整するという経緯を踏んだ。一口に言って防衛庁の対応は、全般的には紳士的と評価して差し支えないだろう。以下に総評をまとめてみる。

対防衛庁交渉 市民グループ総括

総括的にいって、運動の成果は顕著だといえるのではないか。少なくとも「普通の市民が攻めても絶対、事実をいうわけがない」との予測を見事に覆し、本質問書はもとより、追加質問でも新たな事実を引き出すことができた。交渉設定担当者によれば、私たち市民グループから提出される質問書はもはや文書課サイドでは裁き切れなくなり、局長クラスにまで上がっているとのこと、さらに私たちのグループ認識については「普通の市民ではない」と推測するなど、防衛庁側に動揺が現れていることは確かだ。その一つに以下の報道がある。

「有事論争で開戦 防衛庁と朝日の大ゲンカ」

この記事は『週刊読売』7月21日号の冒頭に載ったバーレーン協議に関する見出しである。内容は朝日新聞6月16日付けの「インド洋上補給 海自艦 米が戦術指揮 昨年来 海幕チーム容認」報道について、防衛庁側が全くの誤報とし、「誠意ある回答がない場合は、訴訟も辞さない覚悟である」との抗議文を6月18日、朝日新聞社に内容証明付きで送ったといういうものである。

これについてある専門家は、こうコメントする。「これまでの防衛庁としては、あり得ないこと」。また当の『週刊読売』もこう述べる。「普通、役所がマスコミに送る抗議文は役所の面子を保つために形だけに終わることが多い。それに比べ、今回の防衛庁の抗議文は異例の過激さだ」。

防衛庁のこうした行動は、私たちの運動と直接的な関わりがあることは確かだ。交渉記録をお読みいただければ分かることだが、実は防衛庁の抗議騒動の前日(6月17日)が「イージス艦派遣問題」の交渉日で、防衛庁とのやり取りのなかで、6月16日に報道されたばかりのバーレーン協議を引き合いに出し、厳しい論争を展開した経緯がある。

防衛庁は『週刊読売』に対して、これには前段があるとし,イージス艦派遣要請の件を取り上げ、これも全くの誤報だったので、このような処置をとったと釈明している。さらに、こうも述べている。「抗議文に訴訟も辞さずと書いたのは初めて。このまま黙っていては朝日の記事が事実になってしまうから」

この記事を額面通り受け止めれば朝日への抗議文に他ならないが、他方、私たちの行動に対する先制攻撃の意図も十分窺える。7月19日のバーレーン協議問題交渉では、おそらくこの記事を引き合いに出し、「事実ではない」の1点張りで突っ撥ねるかとの予測もあったが、しかし、案に相違して、ボロボロと事実を認めるではないか。これでは朝日への抗議文の立場がなかろうというもの。イージス艦派遣問題、バーレーン協議問題ともに、本文を参照して頂きたい。

ただ頑強に否定する部分もある。明らかにすると差し障りがあるとするのはインド洋上での給油活動だ。問題発言については、「報道は事実ではない」と苦しい言い逃れに終始する。

いずれにしても「日米安全保障条約」「テロ特措法」を楯に、アメリカのテロ報復戦争を支援する日本の巨大組織・防衛庁に、シビリアン・コントロールの破壊は違憲ではないのかと迫り、事実を事実として認めざるを得ない窮地に立たせた意義は大きいのではないか。やればできるという精神の下、憲法改悪・有事法制関連3法案の成立ともに許さず、世界平和に向け、市民運動を結集していきたいものである。

                          2002年8月7日

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