1997年3月30日、快晴の日曜日。
「いつもの場所に、日没までに集合!」星見仲間との打ち合わせは、これで済んだ。
日没後の西空に、この前からあったような顔でヘール・ボップ彗星がかかっている。
汗ばむ位暖かな午後、撮影機材を車に積んで、いつもの仲間、T先輩とS君を乗せていざ出発!
日が暮れてからの出発が多かったけど、今日はうららかな春の陽を浴びながら、のんびり山へ
向けて走る。例年より少し早い桜や、山里に咲き残る梅。カーブを回るたび、谷を越えるたび
楚々とした色とりどりの花が我々を迎えてくれた。
花々が現れるたび,車内に歓声がわく。「今までこんなにお花見しながら星を見に行ったことって
あったっけ?」
午後4時半、お山の稜線に着いた。稜線に続く道ばたはすでに同好の士がカメラと望遠鏡の放列
を敷いている。我々は仕方なしに、便所の脇に陣取った。
「こんにちは、どちらから?」「今晩の尾の具合はどうですかね?」準備がてら同好の士と話の輪
が広がる。星は人のつながりを取り持つこともあるようだ。
午後6時半、山の稜線に一斉にざわめきが走った。「見えたぞ!」皆一斉に大きな双眼鏡を、カメラを
西の空に姿を現したヘール・ボップ彗星に向ける。黄色と青の2本の尾が、はっきり見える。
低空に暮れ残ったような位置なので、大気の減光を受けそれが写真には見た目以上に邪魔になる。
それでも沈む前に何としてもカメラに収めたい。勝負は1時間もあれば決まってしまう。
いつもの通り、赤道儀に載せたガイド鏡に中望遠をつけたカメラを同架してガイド撮影を始める。
が、今日に限ってガイド星は赤い照準環からどんどんずれていく。赤緯軸から手が放せない。本当は
カメラはモータードライブに任せてその間、双眼鏡でのんびり彗星の姿を楽しむはずだったのだが。
寒い。それに腹の虫が鳴き始める。
カメラのシャッター音がそこここで小さな叫びをあげる春の宵の山。
ヘール・ボップ彗星の写真を見るたび、花々に見送られ走ってきた山里までが懐かしく思い出される。
で、写真をいじくるとこんな姿になりました。
青い尾がイオンの尾、黄色は塵の尾(ダストテイル)。
撮影データ Nikon
FM2ハ NikkorF1.8 105mm Vixen 旧ポラリス赤道儀 60/700mm屈折に同架 k20+暗視野照明
フジ800カラーネガ標準現像 1997年3月30日 19時頃 2分露出
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